こんにちは。今回担当します池川です。
連日ニュースを賑わせている、「携帯電話料金値下げ」のニュースに関する考察を行います。
この記事は5分ほどで読めますので、興味のある方は是非見てみてくださいね。
ニュースの内容
2020/10/28 日本経済新聞 朝刊2ページ
「携帯料金の競争促進策―大容量で割安「UQ」新プラン、KDDI。」
ニュースの本文
KDDIは格安ブランド「UQモバイル」の携帯電話料金をめぐり、20ギガ(ギガは10億)バイトのデータ容量で月額3980円(税抜き)の新たなプランを導入する方針を固めた。ソフトバンクも「ワイモバイル」で安価な新プランを始める。両社は28日にも発表する。菅義偉政権の値下げ要請に応じ幅広い顧客の獲得につなげる。携帯各社による値下げ競争が過熱しそうだ。
菅政権は20ギガバイト以上である「大容量プラン」の価格が海外に比べて高いとして、携帯各社に値下げを求めていた。「大容量プランで月5000円以下」が目安とされ、各社で検討している。
KDDIは主力の「au」ブランドとは別に、UQモバイルで安価な料金設定を打ち出す。UQモバイルの月額3980円の新プランは、現行の通信規格「4G」を対象とし、2021年1~3月にも導入する。60分500円の通話料金を加えても税込みで5000円を切る見通しだ。
日本の携帯電話料金は高いのか?
菅総理大臣の発言により、連日ニュースで携帯電話料金の引き下げについて取りざたされています。その発言中で
「日本の携帯電話料金は世界と比べて明らかに高い」
という主張がありました。
本当に日本の携帯電話料金は世界と比べて高いのでしょうか?
日本と海外の携帯電話料金比較
株式会社ICT総研(総務省も発表)は7月16日、
「2020年 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」
の結果をまとめた。
調査対象は
「日本」「アメリカ」「イギリス」「フランス」「ドイツ」「韓国」
の6カ国が対象。
表1にある通り、どのデータ容量のプラン(2GB/5GB/20GB)でも平均よりも高いと言えます。中でも飛びぬけているのが20GBプランです。日本の携帯電話料金が世界と比べて高いと言われる所以はここにあると言えます。
日本の携帯電話料金が高い理由は?
携帯電話料金が高い理由は2つあると考えています。
結論から言ってしまうと、
①サービス(通信品質/サポートなど)が良いから
②5Gの設備投資に回しているから
の2つが挙げられます。それぞれ詳しく見ていきます。
①サービス(通信品質/サポートなど)が良いから
表1のデータだけを見れば日本の携帯電話料金は世界と比べて高いと言えますが、実はそうでもないのです。
皆さんは、携帯キャリアの契約をする際に注目しているポイントはなんですか?
学生さんであれば、格安SIMで料金だけを見ているという方もいるかもしれませんが、ほとんどの方は
「通信速度/安全性」
「電話かけ放題か」
などに注目されるかと思います。
中でも、「通信速度/安全性」いわゆる通信品質に関してだと、日本は表1の世界の中で最も高い(品質が良い)のです。
表2 4G接続における世界各国との比較(ICT総研)
表2を見ると分かる通り、「4G接続率」という観点において、日本は1番なのです。このような通信品質が高いため、日本の携帯電話料金が高いというのも納得のはずです。
質が高ければ料金が高いのは当たり前です。日本のスマホで料金が安いとされている、格安スマホがありますが、これも通信品質は大手キャリア(au/ドコモ/ソフトバンク)には劣るため、安いのです。
また、サポートに関しても高品質であると言えます。例えば、日本では自然災害が非常に多いので、災害から迅速に復旧するための備えも多くのコストをかけて整えられています。しかも、大手キャリア3社は店舗を全国に構え、シニアなどにスマートフォンの使い方を教える教室を実施するなど、店頭で充実したサポートを無料で提供しています。
こういったサポートは我々が月々支払っている通信料から賄われています。
「通信品質が高いから携帯電話料金が高い」という事実で納得もできるかもしれませんが、前にも述べた通り、理由はそれだけではないのです。
②5Gの設備投資に回しているから
今や皆さんに5Gの説明をする必要がないくらい、浸透しているものですが、
「通信速度が速くなるらしい」
「便利になるんだ~」
くらいにしか思っていない方が多くいます。
色々なところで説明されている状態(自動運転ができる/動画が今までの100倍でダウンロードなど)になるには、多額の設備投資が必要になります。
これから世界と戦っていく中で、情報の速度=5Gは必須になっていきます。ですので、大手キャリア3社+楽天が設備投資に乗り出しているのです。
では、大手キャリア3社+楽天の設備投資計画について総務省のデータを参照すると、
表3 2024年度末5G設備投資計画(総務省)
表3にある通りで、設備投資額は数千億単位になっていることが分かります。大手キャリア3社の営業利益率は20%台なので、「儲けすぎである」と政府が主張していますが、5Gの設備投資にここまでのお金をかけているのなら仕方がないと言えます。参考までに、電波は電気などと同じインフラでありますが、そんな電気関係の会社(東京電力など)の営業利益率は5%台であると言われています。
なぜ政府が携帯電話料金を安くしようとしているのか
結論から言いますと、「選挙対策である」「消費増税の代わりに携帯料金を下げる魂胆である」と考えます。
また、携帯電話料金の値下げに関しては、国民が不満に思っていることでもあり、注目されやすいです。その裏付けとして、野村総合研究所が2018年7月に実施した「携帯料金に関する意識調査」によると、アンケートに回答した消費者の約6割が携帯料金を「高い」と感じており、さらに約3割の消費者が携帯料金に「納得していない」と答えているからです。
携帯電話料金値下げの歴史
菅首相が官房長官時代の2018年にさかのぼります。2018年に菅官房長官は「携帯電話料金を4割削減できる」と主張しました。それによって、国民の期待感は上がりました。その流れを受けて、大手キャリア3社は値下げを行いましたが、あまり変わることなく、むしろ上がったのではないか?という意見まで出ています。
実際に、総務省の家計調査(総世帯)で、1世帯当たりの携帯電話料金は2012年の年間8万1477円から、「4割」値下げ発言があった18年には10万3343円に増加しています。翌19年も伸びは鈍化したものの減少には転じず、123円増の10万3466円でした。
これを見ると、
「マイクパフォーマンスなんじゃないの?」
「期待感だけを上げて好感を得たいとした思えない」
といった意見がでるのは明白ですね。
他にも好感を得るために行われているのではないかと思えてしまうような事例はいくつかあります。
そのうちの1つとして、2018年9月に実施された沖縄県知事選において、政権与党である自民党らが応援する候補が、携帯電話料金の4割削減を目指すことを、公約の1つとして掲げて選挙運動をしました。各種報道を見るに、この公約は若者から支持を得るための目玉の1つとなっていたようです。このような理由から国民の身近でかつ、不満を感じている携帯電話料金の値下げを公言しているのでしょう。
今回の値下げ行動の結果
ニュース本文にある通り、KDDIとソフトバンクは同グループのUQモバイルとワイモバイルの格安スマホ領域において値下げ(新プランの設置)を行いました。ここでポイントなのが、国民の約8割を占めている大手キャリア3社では値下げが行われていないという点なのです。
もちろん、格安スマホの20GBにおける新プランの設置は効果的ではあると思いますが、国民が期待しているものとは異なるように感じます。
そう思ったのも、テレビの取材に答える人たちの受け答えからです。「安くなるのは嬉しい」といった声が多くありましたが、その方々は大手キャリア3社と契約をしていました。ということは、その方たちは値下げを享受するために、格安スマホに乗り換えをする必要があります。
本当に効果的な施策なのかどうか甚だ疑問が浮かびます。
国民の本当のニーズとは?
では、なぜ私が今回の値下げに関して効果が甚だ疑問であるのかについてご説明します。
その理由は、国民のニーズとは別の方法での値下げだったからです。国民のニーズとはなんでしょうか?
ここまでお読みになられた方ならお気づきかもしれませんが、
「自分達は動かないで、勝手に価格が下がること」
なのです。
自分達は行動を起こさない=「大手キャリア3社での値下げ」「格安スマホに乗り換えるのは面倒」ということです。
ですので、今回の値下げ騒動も不発に終わってしまっていると私は考えます。
最後に
ただ、この問題には調べれば調べるほど闇が深く(利権や天下り)、根本的な解決は難しそうに思います。
価格設定は市場において勝手になされるもの、政府が関与する理由、考えれば考えるほど色々な立場、考え方があります。
こういった問題を自分なりに考察し、意見を持つことの大切さと面白さに気づきました。